22 院外処方と経営の関係 持病も学びのきっかけに

 アレルギー性鼻炎でくしゃみが止まらない奈須は、遅番の休憩のときに、外来で診療を受け、病院の外の薬局で薬をもらった。薬局は、午前の外来のピークが過ぎ、薬をもらう患者さんもほとんどいない。薬局の管理薬剤師である久保信次郎(くぼしんじろう)が奈須の服薬指導にあたった。奈須は、いつも患者さんから、薬がになってから値上がりしたとう話を聞いていた。そこで、思い切って院外調剤のメリットについて久保さんに聞いてみた。

奈須:久保さん、外来患者の薬を外の薬局である調剤薬局に切り替えるメリットって何なの?

久保:外の調剤薬局に切り替えるメリットは、患者さんの安全管理だよ。患者さんって、いろんな医療機関にかかっている場合があるよね。

奈須:そういえば、うちのおばあちゃんも、内科はうちの病院だけど、眼科はクリニックにかかっているわ。

久保:もし、内科で処方された薬と眼科で処方された薬が禁忌だったら?

奈須:それは、困るわね。患者さんが知っているはずもないしね。

久保:そこが、我々の仕事なんだよ。かかりつけ医に対して、かかりつけ薬局という制度を根付かせようと、日本薬剤師会と厚生労働省が頑張っている。いくつもの医療機関に患者さんがかかっていたとしても、一か所のかかりつけ薬局へ処方せんを出せば、禁忌や相互作用についてチェックすることができる。だから、安全管理になるんだ。通常、患者さんは、何を飲んでいるか薬の名前で憶えていないよね。「何飲んでますか?」って聞かれたら、”赤い薬”とか”粉薬”といった感じになるよね。我々が処方せんから、薬歴を作って管理することで、我々も、飲んでる薬の名前が分かる様になるんだ。それと、最近は、への置き換えなども院外の薬局の仕事なんだよ。患者さんがジェネリックへの変更を要望すれば、薬が安くなる。

奈須:そうなんだ。安全管理の一環なのね。

久保:薬を院外にすることは、病院にとってもメリットがあるよ。それは、病院の人に聞いてみてごらん。

奈須:医事課の人に聞いてみる。

久保:それと、院外の処方せんの受付をする薬局のことは、保険薬局が正式名称だよ。調剤薬局とは、俗称なので、気をつけてね。たまに、怒る薬局の人がいるからね。

 奈須は、病院にもどり、医事課で、石崎を見つけ、病院の院外処方のメリットについて尋ねた。

奈須:薬局でアレルギーの薬をもらってきたんだけど、病院の院外処方のメリットは何なの?

石崎:勉強熱心だね。病院経営にとって重要なことだよ。ポイントは、2つある。1つは薬価差益と処方せん料、もう一つは、在庫だ。

奈須:薬価差益というのは、薬の仕入れと薬価との差だよね。90円で仕入れた薬が100円の薬価であれば、10円が薬価差益だよね。

石崎:医療費の抑制のために、薬価差益がどんどん減っている。厚生労働省は、5%にしたいといった話もある。

奈須:5%だとすると95円で仕入れて、100円で売るようなものだよね。

石崎:そうそう、実際には、薬価差はもっとあるけどね。例えば、月間2000万円外来の投薬の収入があったとすると5%であれば100万円だ。でも調剤間違いによる廃棄や期限切れなどを考えると5%では、トントンなんだよ。利益がなくなるよね。ほかに、調剤料があるけど、薬剤師の人件費からすると結構厳しい。そうすると、処方せんを発行した方が割がいいんだよ。A5の紙1枚で、68点だったりするわけだろ。処方せんを5,000枚発行すると340万円だよ。外来調剤に薬剤師を張り付く必要もなくなるから、病棟の服薬指導業務ができるようになる。薬剤師にとって、病棟服薬指導は花形だからね。一挙両得だよ。

奈須:いいことが多いね。もう一つのキーワードの在庫は?

石崎:在庫が減ることなんだよ。在庫の減少は、会計上の大きなメリットなんだ。会計とは、財務会計の会計だよ。お会計じゃないよ。

奈須:そのくらいわかるわよ。馬鹿にしないでよ。

石崎:在庫が減るということは?

奈須:倉庫が空く?

石崎:会計で考えてよ。在庫が減るということは、支払いが減る。支払いが減ると?

奈須:現金が増える?

石崎:そうだよ。支払いが減ると現金が増えるんだよ。在庫を現金化したのと同じだね。現金が増えるということは、病院が借り入れているお金である負債を減らすことができる。負債が減ると、これまで払っていた利息が減るよね。病院でも企業でも在庫を減らすことは、すごくメリットがあるんだよ。分かったかな。

奈須:ありがとう。勉強になった。これから昼のカンファレンスなので行くね。 院外処方もこうやって考えると奥の深いのである。何事も深く多面的に考えることの重要性に気付きつつある奈須であった。